第3回オープン・イノベーションに役立つCVCの活用法
「CVC4.0」の時代
筆者は、上記のように、外部ベンチャーキャピタルとともに自社専用のCVCファンドを設立する形態が最も適切なパターンだと考えているが、昨今、この形態が、「CVC4.0」と呼ばれている。ウッザマン(2019)によれば、次のような時系列の流れがある。
「CVC1.0」は、1980年代から始まった様々な企業が、外部のVCのファンドに投資して、自社とシナジーが出そうなスタートアップとの提携を模索した動きである。しかし、VCは、シナジーより財務的なリターンを重視するため投資戦略にギャップが出た。また、複数の投資家が存在するため、投資後の協業がうまくいかなかった。上記の(4)のパターンである。
2000年代にはいると、事業会社の子会社として、ファンドを作り、自社の社員をファンドマネージャーにする「CVC2.0」が出てきた。事業会社の意思決定を反映できるようになったが、ファンドマネージャーがスタートアップ投資のプロではないため、投資先の支援が十分できないという課題が出てきた。上記の(2)のパターンである。
次の「CVC3.0」では、ファンドは子会社として社内で運用し、ファンドマネージャーは外部から専門家を雇うというモデルとなった。ファンド運営は改善したものの、事業会社の色が強すぎ、スタートアップ側が技術やアイディアを盗まれることを警戒し、うまく提携につながらないという課題が生まれた。これも、上記の(2)のパターンの応用である。
そのような中で、事業会社が組成したファンドを外部VCが運用する、すなわち、事業会社と外部VCで、共同で二人組合を設立し運用する「CVC4.0」が生まれた。これが、上記の(3)のパターンである。これにより、事業会社の色が薄くなり(最も濃いのが、上記では、(1)のパターン)、様々なスタートアップとビジネスのチャンスを探れるようになった。特に、専用ファンドのため、複数の投資家が存在しないので、事業会社の希望を反映した戦略的投資が可能になった。
CVCファンド設立までのステップ
CVCファンドを立ち上げるまでのステップを、簡略に示すと、次のようになる。
- 何のためにCVCを立ち上げるのかの目標の明確化
- どのような形態で設立するかの制度設計
- どのような投資対象(ターゲット)に投資するかの検討
- ファンドのフィーなどの条件設定や意思決定の仕組み設計
- 社内の合意形成や意思決定に向けたスケジューリング
- ファンド設立のための予算確保・執行
- CVCファンドの設立・運用スタート
以上のような流れで、CVCファンドを設立することとなる。とりわけ、研究開発部門がオープン・イノベーションのために、CVCファンドを設立する場合には、①において、どのような領域、すなわち、既存の社内でのR&Dとの距離感がどの程度の分野に投資するかをよく議論・検討して、決めていくことが大切となる。
冨田 賢
Satoshi Tomita, Ph.D.
CVC JAPAN株式会社
代表取締役社長